貝が喋る

あぶくのような言葉たち

イソギンチャクちゃん

昨日、仲のいいサークルの先輩とお話ししてたんですが

その先輩の高校時代の知り合いが、入籍するらしいんですよ。

 

いや、早いものですねぇ。

なぁなぁに日々を消化していたら、気づけばもう21歳。

知り合いの知り合いが、入籍するような年齢ですよ。

 

純白のウエディングドレス。

踏みしめて歩くバージンロード、幸せですね。

 

かくいう僕は、今は特に結婚願望とかはないんですけど。

あ、橋本環奈に求婚されたら結婚しますよ、もちろん?

仕方ないですもんね、それは。

 

結婚はそんなに求めてないんですが、僕ちょっと、やってみたいことがありまして。

 

そう、お見合い。

これ一回やってみたいんですよ。

 

今でこそあまり聞きませんが、昔はね。

家柄の問題とかもあったりして、少なくなかったイメージですね。

 

ほぼほぼ初対面の男女二人が、互いに

「この人が、ややもすると結婚相手…」とかって思いながら

少しずつ少しずつ、会話を進めていくわけでしょう?

 

正直、話すこともないからとりあえず趣味とか聞いちゃったりして。

なかなか弾まない会話の中で、それでもじわじわと探りを入れてく…

 

気まずいですよね、絶対。

 

その絶妙な気まずさを、一回味わってみたいんですよねぇ。

なんか、笑っちゃいそう。

 

というわけで、ちょっとシミュレーションしてみました。

 

将来起こる(かもしれない)

貝と、一般女性とのお見合いです。

 

では、どうぞ。

 

ーーー

 

仲人さん

「じゃ、お二人さん、ごゆっくり♡」

 

………

 

「…あ、えっと…

改めまして、貝、といいます」

 

「あ、イソギンチャクです」

 

「今日は、よろしくお願いします」

 

「あ、お願いします…」

 

「………」

 

「………」

 

「…あの」

 

「は、はい!」

 

「…月並みですが、ご趣味は…」

 

「…あ、えっと…

お裁縫を、少々…」

 

「裁縫ですか。器用なんですね」

 

「えへへ…」

 

「どんなものを、作られるんですか?」

 

「そうですね、最近だと…

家、とか」

 

「おっとぉ」

 

「あ、そんな大層なものではなくて!

一階建ての、ワンルームですし…」

 

「大層が過ぎますね」

 

「貝さんは、ご趣味などありますか?」

 

「ハードル上げたこと気づいてます?

…そうですね、僕は本を読んだりなんかしますね」

 

「本ですか。

どのようなものを?」

 

 

「最近読んだ本は…」

 

広辞苑とか?」

 

「あれを『読む』人、珍しいと思いますよ。

仕事柄、流行りの小説とかですかね」

 

「お仕事、何されてるんですか?」

 

「あ、書店のマネージャー的な業務を」

 

「マネージャー…

ポカリを差し入れたり、アイシング配ったりですか?」

 

「アイシング必要な書店、見たことあります?」

 

「大変そう…

珍しいお仕事なさってるんですね」

 

「割とありがちな仕事ですけどね、本来。

イソギンチャクさんは、どのようなお仕事を…」

 

「あ、私は、ちょっと特技を生かせるように…」

 

「あぁ、いいですね。

洋服を作ったり?」

 

「いえ、大工を…」

 

「そっちか~~」

 

「まだまだ、半人前で…

師匠に怒られてばっかりなんですけど」

 

「師匠とかいるんだ」

 

「師匠は、凄いんですよ!

家一軒、全部わらで作っちゃったり…」

 

「あなたは毛糸ですけどね」

 

「あるときは、全部木の枝で作っちゃったり…」

 

「凄さ落ちてますね」

 

「この前なんか、レンガでおうち作っちゃったんですよ!」

 

師匠、こぶた⁇

三匹いたりしません、もしかして?」

 

「それに比べて、私なんかまだまだで…」

 

「まぁ、家作るのって難しそうですもんね」

 

「この前も、クレームっていうか

お客さんに叱られちゃって…」

 

「あら。

厳しいお客さんだったんですね」

 

「何でも

雨漏りがひどい、とか…」

 

「糸だからだよ。

そりゃ師匠も怒るよ」

 

「…やっぱり、私ってダメなんですかね」

 

「そういう次元じゃないんじゃないかな」

 

「この前も、お料理しようと思ったんですけど

なかなかうまくできなくて…」

 

「苦手なんですか?

お料理」

 

「えぇ。なんでかわかんないんですけど…

フライパン、いきなり燃えちゃって…」

 

「編んだな、さては」

 

「危うく、おうちに燃え移るところでした」

 

「毛糸ですもんね、おうちも。

そもそもの始まりが間違いですからね」

 

「…やっぱり、こんな私には

興味なんか、わかないですか?」

 

「令和一わいてますよ、興味って意味では」

 

「でも、いつもお見合いってなると

何でかうまくいかなくて…」

 

「順当な結果ですね」

 

「…貝さんも、嫌ですか?

こんな女…」

 

「そういう次元じゃないんだよなぁ。

…あの、よかったら、今度御一緒に、どこかに出かけてみませんか?」

 

「!

本当ですか⁈」

 

「お互いをよく知る意味でも。

正直あなたを前にして、ワクワクが止まらない自分がいます」

 

「…嬉しい、ありがとうございます//

当日は私、とってもかわいいお洋服…」

 

「お」

 

「アマゾンで探しますね!」

 

「いや編めよ」

 

fin.

ーーー

どうでしたか?

イソギンチャクちゃん。

 

…正直、惚れちゃいますよね。

こんな子いたら。

 

そう考えると、お見合いも悪くないですね。

僕のイソギンチャクちゃんと、出会えるその日が楽しみです。