貝が喋る

あぶくのような言葉たち

女神

以前、書いたかどうかわかんないんですが

僕は大学で、数学を専攻しているんですよ。実は。

 

数学って、みなさんもご存知の通り

「論理」を土台にして、理論を積み上げていく学問なんですけど。

 

「論理的に正しい」って、日常生活において、そんな役に立たないんですね。

僕達の生活なんて、「何ともいえない」ことが圧倒的に多いわけだし、仮に「論理的に正しい」事柄があったって、だからなんだ、って話ですしね。

 

と、そんな考えから、僕は普段の生活で論理をあまり使わないようにしてるんですよ。

「論理的に正しい」より、「なんとなく」のほうが

実際的だし、ユーモラスかなって。

 

ですが最近、いろんな方向から数学の話を振られることがありまして。

暇だから、数学でもやってみるかー、て人間が世の中にはいるんですね、一定数。

 

驚きましたが、やっぱり自分が好きな分野に友人たちが興味を持ってくれるっていうのは、嬉しいものですね。

たまにわからない問題があったりすると、やるせないような、惨めな気持ちになりますが…

 

そろそろ僕の大学は、オンラインでの授業が始まったりすることもあって

最近、久々に数学と接しているのですが。

 

前提として、女神じゃないですか、数学って。

 

あ、痛い。読者の視線が痛い。

ちょっと待って、いったん最後まで聞いてみてください。

 

何をかくそう、僕は去年一年、わけあって留年しているんですが

その時、本気で数学わかんねぇ~!てなったんですね。

 

一応、大学行ってまで数学やるくらいですから

高校、大学初期まではそこそこできる部類だったと思うんです。思いたい。

 

でも、大学二回で、より専門的なことを学んで…

いやぁ、本当にわかんなかった。

 

前述のとおり、数学って女神なんですが

モテるんですよ、この女。めちゃくちゃ。

 

世の中には、女なんて星の数ほどいて

もっと実用的な学問、例えば工学とか経済学とか、そういう選択肢もあるじゃないですか。数学科なんて、職がないことで有名だし。

 

それでも一定数、数学の女神に魅入られて離れられない人間がいるんですよ。

他の女を選んだ方が、幸せになれるってわかってるのに…

 

そう、数学の女神は、モテるんです。

なぜ、彼女はモテるのか。

 

その要因の一つが、先に挙げた「わからなさ」だと思うんですよね。

 

恋愛でよく、「向こうに好かれたら冷めた」とかっていうことあるじゃないですか。

駆け引きしてる間は、あんなに楽しかったし、ドキドキしたのに…

付き合ってみると、あれ、なんか全然好きじゃないな、ってなる。

 

俗にいう、「蛙化現象」ですね。

 

あれと同じで

「わからない」女ってモテるんですよね。

 

それも、全部わからないんじゃないんです。

 

努力して、そのベールの下の美貌を一目見ようと近づいてみると

少しだけ、美しい素顔の片りんを見せてくれるんですよ。

 

ふわりと揺れる、艶やかな黒紙。

潤いを帯びた、深紅の唇。

 

わずかに感じる美しさの欠片に、僕達はあっという間に虜にされます。

 

しかし、彼女は決して僕のものにはなりません。

近づけば近づくほど、謎はよりきらめきを帯びて深まっていき、僕らをさらに迷宮の奥へと誘うのです。

 

彼女が持てる原因の一つ。

「ミステリアス」、そしてそれゆえの「ロマン」ですね。

 

それならばと、僕らはいったん、彼女から離れてほかの女と遊んでみます。

本を読んだり、ゲームをしたり。

天真爛漫な若い子たちとはしゃぎながら、ちらりと女神の横顔を窺います。

 

彼女は、全く動じません。

僕が去ると、それに合わせて、すっとベールを下ろすだけ。

 

これが彼女がモテる原因その2。

「気高さ」です。

 

そう、僕はあの時

数学がわからなくて、途方に暮れた一年前。

 

わからないところから目をそらして、数学から離れてしまったんです。

 

別に、あの時間が無駄だったとは思いません。

ただ、数学の女神は、自分から離れた男に追いすがることはないのです。

 

美しく、ミステリアスで、そして気高い。

 

これでモテないはずがないでしょう。

数学が、女神と比喩される所以です。

 

大学入学以来、色々な道を切り捨てて(切り捨てる必要のない道まで切っちゃいました)

結局、今の僕には数学しか残っていません。

 

あの女神は高根の花だし、僕は別に選ばれた天才でも、ラブコメの主人公でもないんですが

 

僕なりのペースで、僕なりの言葉で

口説き続けたいと思います。

 

…なんか、めちゃくちゃ恥ずかしい文章になってる…