貝が喋る

あぶくのような言葉たち

アンアビリティ

「ここが『無能力クラス』かぁ…」

 

この世界では、誰でもちょっとした能力が使える。

 

炎を操る能力。風を吹かせる能力。病気を治してしまう能力。

有名になる人、第一線で活躍する人は、みんな漫画のような素晴らしい能力を持っている。

 

だが…

 

「お、あいつ『無能力クラス』らしいぞ」

 

「今年はどんな素晴らしい能力者が入ってるのかねぇ~」

 

男子生徒二人が、こっちをみてにやにや笑っている。

 

…4月12日生まれに、11月6日生まれ。

私の能力は、「相手の誕生日がわかる能力」だ。

 

はっきり言って、使えない。

 

この能力が一番力を発揮するのは、所詮友達のサプライズパーティーを企画するときくらい。

悪者を撃退できるわけでもないし、誰かを救えるわけでもない。

 

そう、いわば「無能」なのだ。

 

そしてこの、『無能力者クラス』には、私のように特に使いどころのなさそうな能力を持った生徒がまとめて配属される。

 

ーーー

 

「…はぁ」

 

ため息をつきながら、指定された座席に座る。

私たちのような無能力者は、普通の能力者にバカにされることが多い。

最初は反抗したり、言い返したりもしていたが、結局この世界は能力、生まれ持った才能が全てなのだ。いつしかそれを悟って、ひっそりと日陰で生きるようになった。

 

「…あ」

 

 ぼーっとしていたら、手に持ったシャーペンの芯を落としてしまった。

慌てて拾おうとしたが、細くて小さくて、拾いにくい。ああもう、面倒くさいな。

 

と、突然、頑固に居座っていたシャー芯が、ふわりと浮いた。

 

びっくりして、顔を上げる。隣の席の男の子が、優しく微笑みかけていた。

 

「はい、どうぞ」

 

…6月7日生まれ。

 

「あ、ありがとう」

 

男の子は、もう一度優しく笑うと、持っている本に目を落とした。

 

…びっくりした。いきなりシャー芯が浮かぶなんて。

ものを浮かせる能力、とかかな。便利そうな能力だけど、なんでこのクラスにいるんだろう。

 

…ちょっと、格好良かったな。

 

6月7日。その日付とさっきの笑顔が、頭に残って離れなかった。

 

ーーー

 

「『相手の誕生日がわかる能力』に、『落としたシャー芯を浮かせる能力』か…」

 

「今年も粒ぞろいの、面白そうな無能力者が集まっているな」

 

「それはどうかしら。私から見たら、どれも平凡な無能力だわ」

 

「まだまだこれからだろう。無能は『何ができるか』じゃなくて、『どう使うか』だ」

 

「俺たち『アンアビリティ』の一員たる力があるか、見ものですね、会長?」

 

ーアンアビリティー

 

相川秀樹

~袋の開け口を『こちら側のどこからでも切れます』に変える能力~

 

松村翔

~家の鍵をかけ忘れたか、確認できる能力~

 

書記

坂口安奈

~昨日見た夢の内容を思い出せる能力~

 

会計

綾瀬川大貴

~一円玉の枚数を一瞬で数えられる能力~

 

副会長

瀬戸敦

~食べ物の賞味期限のみを、一日伸ばす能力~

 

「………」

 

会長

川谷恵美

~???~

 

ーーー

 

いかがでしょうか。

 

無能な能力、『無能力』を題材にした学園ストーリー『アンアビリティ』。

 

謎の組織、『アンアビリティ』とは一体?

新入生の二人の、恋の行方は?

 

続編並びに書籍化、乞うご期待!