プチトマトの恐怖
人って、ボケるじゃないですか。
あ、認知症とかの話じゃないです。
ネタ的な意味でです。
普段から僕たちは、何気ない冗談を言ったり、ちょっとしたギャグを挟んだりと、ボケてみる機会って意外と多いと思うんですが
…ボケた時に、最も恐ろしいことって、何だと思います?
…はい、はいはい。
そうですよね。
「滑ること」ですよね。
基本的に多くの人が、こう答えたんじゃないかなと思います。
…僕も最近まで、そう思っていました。
しかしつい先日、この認識を改めさせられる出来事が起こりました。
これは僕が、実際に体験した、恐怖の記録です。
VTR、どうぞ。
ーーー
―あれは、バイト先での出来事。
僕の働いているところは、仕事上隙間時間の空くことが多くて、一緒にシフトに入っている人と話したり、軽く何かをつまんだり、といった時間があるのですが
その日も僕と、もう一人女の子の二人で、チョコレートをつまみながら話していました。
なんでも、そのチョコレートは彼女が別のバイト先で大量にもらったものらしくて
二人でチョコをほおばりながら、彼女は僕にチョコの種類を、細かく説明してくれていました。
色鮮やかなチョコレートが、雑多に入れられた、宝石箱のようなケース。
その中に、ちょっと大きめの、真っ赤な丸いチョコレートを見つけました。
…最初は、ほんの出来心だったんです。
「こちらがちょっと柑橘系で、これが少しお酒の入った…」
説明を続ける彼女に、僕はごくごく軽い気持ちで
「これが、プチトマトですね」
と、言ってみました。
彼女はどちらかというと、冗談などをあまり言わないタイプです。
普段酸素の代わりに、ふざけた台詞を吐いている僕とは大違い。
ですが僕も、伊達にくだらないこと言って20年以上生きてはいません。
この時僕は頭の中に、いくつかのリアクションを想定していました。
- 「うっるさ」
- 「は?」
- 「はいはい」
- スルー
- 「そうそう、甘さの中にちょっと酸味が入ってて…」
- 「さっき畑からとってきました」
- 「確かに!似てる!」
- 「そんなことより踊りませんか?」
- 「いやもういいよ!」
- 再びスルー
- 「あ、プチトマトアソート的なね?」
- 「ところで、今度ホームパーティーを開くんだけど、君もどうかな?」
1が最も濃厚、しかし先ほどスルーされていることにより、2の選択も有力です。
ジェニファーの幼馴染のマイケルなら、迷わず4を選ぶでしょう。
彼女の選択は2、「再びスルー」。
ここまでは順調です。
さぁ、最後の仕上げ。
滑った人間がするべき、最優先事項。
それは
「自分は滑りました、と周りに知らせること」
です。
こうすることで、周りもツッコみやすくなるし、その場における自分の「キャラ」が確立される。
詳しくは、道徳の教科書の「p38 滑った時の対処法」を参照してください。
さて。
僕は自分の「滑り」に食後のデザートを添えるべく、仕上げの一言を放ちます。
僕が彼女に言った言葉。
それはこうです。
「いや突っ込んで!!」
…これでフィナーレ。
アハハ笑、とか
あ、すみません(*^^*)、とか
「僕が滑った」というオチと共に、この話題は収束し、また和やかな談笑が始まる…。
かに、思われました。
…この時の彼女の反応を、ここにそのまま記します。
「え、いや、確かに似てるなって納得しちゃって…
あ、すみません、
どう突っ込んだらよかったですか?」
…お判りいただけたでしょうか。
何と彼女は、僕のプチトマト例えに、納得してしまっていたのです。
いや、悲劇はそこではありません。
確かに納得することもあるでしょう。だって似てたし。
それなら、それならですよ?
最初に言ってくださいよ!!
第一段階で言ってよ!!
「7」でいいじゃん「7」で!!
そしたら道徳の教科書引っ張り出すこともなかったのに!!
しかも、それだけではありません。
何よりの悲劇は、この一言です。
「…どう突っ込んだらよかったですか?」
そう。
この一言により、僕の
「いや突っ込んで!」は
滑った人のノリ突っ込み、ではなく
彼女に放ったまじめなアドバイス
に変わってしまったのです。
僕のそれまでの組み立てを、一気に瓦解させた一言。
彼女のこの言葉によって、このとき僕は
滑ることすら、許してもらえなかったのです。
「ボケた時に、最も恐怖を感じる状況」。
それは、滑ること、ではありません。
滑ることすら許されないこと、それが一番の恐怖なのです。
…とはいっても、今回の非は、僕にあります。
相手の意図を、汲み切ることのできなかったこと。
相手の性格に合わせた「滑り」ができなかったこと。
これらを総合すると、残念ながら現段階の僕の力不足、と言わざるを得ません。
今回の出来事は、一つの試練。
これをばねにしてこれからも、より高い次元の「滑り」を、目指し
滑りを愛し、滑りに愛され、「プロ滑リスト」として、その矜持を胸に生きていきたいと思います。
…いや、突っ込んで!!