貝が喋る

あぶくのような言葉たち

異世界転生夢想

僕には、姉がいるんですけど。

 

この姉が、もう、最高でして。

 

以前、「大切な人」というタイトルの記事に

『僕の大切な人たちは、僕の十倍は面白いです』

と書かせていただいたのですが

 

もう、そんなレベルじゃない。

姉の面白さは、常人に測れる域ではございません。

異世界に転生した勇者のチートステータスみたいな感じ。

 

我が家には、成人した際に家族全員が手紙を送る、という風習があるのですが(平和な家族なのです)

 

両親や、親戚のみんなが

「大きくなったね」

とか

「将来が楽しみです」

などと書いてくれている中、姉の手紙は一通だけ、明らかに異彩を放っていました。

 

彼女からの手紙を、一部抜粋してお届けします。

 

「弟がまじめに育っちゃうと面白くないから、あほにならないかなーと思って、色々とちょっかいを出してみました。

そしたら、見事にあほに育ってくれましたね。

計画通りです。」

 

そう。

僕がこんなにあほに育てられたのは、なんと姉の陰謀だったのです。

 

そういう意味では、僕などが及びもつかないのは当然です。

彼女はいわば、僕の師匠のような存在ですから。あほの師匠。

 

そんなあほ師匠も、今ではもう23歳。

彼女は現在、英語を学び異文化に触れるため、カナダへと留学しています。

バンクーバーあほ師匠』ですね。

 

ちょうど昨日、その『あほし』から、一通のラインが届きました。

 

『オネガイ』

『オコシテ』

『ジュウイチジ』

『ジャパンノ』

『タノンダ』

 

日本の11時といえば、バンクーバーではおよそ午前7時頃。

曰く、課題が立て込んでいる+一限で、早起きしなければならなかったそうです。

 

とりあえずは承諾したものの、昨日投稿した通り、昨日の23時といえば僕はバイトの真っ最中。

 

さすがにきちんと電話をする時間はなかったため、姉が電話に出たことを確認して、そのまま通話を終了しました。

念のため、その直後に

 

『起きた?』

 

と確認を入れたところ

 

『おき』

『た』

『こは』

 

…最後ちょっとよくわかんないけど、まぁ起きたんでしょう。たぶん。

ということで、一応の所は安心して、業務を続けていました。

 

さて、そんなこんなで、今日の朝。

 

姉(仮にくらげとしておきます)からこんなラインが入っていました。

 

『ねー』

『くらげ起きたの?』

『わたしが知ってる世界線のくらげは』

『いま起きたんだけど』

 

異世界に飛ぶな。

 

時刻を見ると、午前3時。

カナダ時間で、およそ11時です。

 

悪い予感はしてたんだけどな…

やらかしたか…

大丈夫かな…

 

弟としては、やはり姉が心配です。

とりあえず、彼女のラインにこう返しました。

 

パラレルワールド

『眠ストーリー』

 

そんなこんなで、本日20時。

彼女から、再びラインが入ります。

 

『ねー、今日こそヤバイ』

『2時間後くらいに』

『この世界線のくらげを』

『おこして』

『ぴょーーー』

 

変な鳴き声と共に、彼女は眠りについた模様。

 

僕は本日もバイトだったのですが、前回の反省を生かして、業務に差しさわりのない程度に電話しました。

 

『…もしもし?』

 

『ん~~~』

 

『おはよ』

 

『え~~~?』

 

『起きた?』

 

『&%$%&…』

 

知らない言語。

どうやら彼女が向こうで習得したのは、英語だけではないようです。

 

『おーい』

 

『う~~~ん』

 

『かい~~~』

 

『ん?』

 

『貝は』

 

『どっちのかい~~~?』

 

貝は一人だよ⁇

人々が誰も、あなたみたいに異世界に飛べると思わないでくださる?

 

そんな問答を、約5分ほど繰り返し…

 

『起きた?』

 

『オキタ』

 

『起きたね?』

 

『ウン』

 

『おっけ、切るよ』

 

プチッ

 

と、電話を切った僕。

 

さすがに、今回は大丈夫でしょう。

結構喋ったし。起きたって言ってたし。

 

安心して、しばらく業務を続けていました。

 

そして約、30分後。

一応確認しておこう。そう思って僕は、彼女にラインを送りました。

 

『え』

 

『起きた?』

 

それが、約3時間前の出来事。

 

いまだ返信はありません。

 

…ご冥福を、お祈りしますm(__)m